「正解を知らないのなら、
ルールなんてとっぱらえばいい…」

10年前ぐらい前からよく耳にするようになった“Farm-to-Table”という言葉がある。
農場からテーブルへ。簡単に説明すると生産者の顔が見える食材を使い、
その土地で調理し提供する。いわゆるサステイナブルと呼ばれる考え方のひとつ。
とりわけ食文化は、いつもファッションの何歩も先を進んでいて、
サステイナブルに関してファッションはほぼ未知数に近い。
“Farm-to-Closet” –農場からクローゼットへ–。この考え方こそ、
デザイナーである石川俊介がText(テキスト)をはじめるに至った原点のようなものである。
 
まずは納得できる素材の調達と生産方法。 するとアルゼンチンやインド、
モンゴルなどさまざまな土地にたどり着いた。 そのひとつがペルーの高山地帯だ。
標高4000m以上、雄大な土地には、自然の草木を食んで育ったアルパカが悠々と暮らす。
そこで出会った希少な黒毛のアルパカに魅了された石川。
そして、世界的にもごく稀なブラックアルパカ100%の生地作りを始めた。
どんな些細な工程も他人任せにすることなく、原料を自ら調達し、工場にも直談判。
柔らかく、そして繊細な黒毛をコートやパンツにできるほどの丈夫な生地に仕立てることは、
石川本人はもちろんのこと、職人にとっても初めての経験だった。
ブラックアルパカに限らず、Textではニットやデニム、ギャバジンなど、
さまざまな生地に対して、時間を惜しむことなく作りあげていく。
石川がそれぞれと交わす密なコミュニケーションは、決して容易なことではない。
しかし手間がかかったっていい。 そうすることで農場も工場も、そして袖を通す誰もが、
その洋服が持つ文脈の一部になれる。
 
ファッションにおけるサステイナブルとは何か、石川は自問自答を続ける。
発展途上の分野ゆえ、ある日突然、ダメとされていたやり方が良いと思えることもあれば、
正解が思わぬことで不正解になることもある。 しかしどうだろう。
だからこそ、自由に思い描くことができるのだ。なにが正しいかなんて、
無理に答え合わせをしないほうがかえって楽しかったりする。